「基礎研究」と「人材育成」に関するアンケート報告

基礎研究と人材育成に関する若手研究者アンケート報告 2012/6/5  横山広美 ・吉田丈人

 日本はどのように基礎研究を推進し、人材を育成していくか。総合科学技術会議のもとに設置された科学技術イノベーション推進専門調査会 基礎研究・人材育成部会では、2020年を目途にした「人材育成の強化に向けた工程表」を2012年6月上旬までに作成し、将来の日本を背負う若手研究者の育成プランをより具体的に明確化することになりました。

 日本学術会議若手アカデミー委員会もこの問題に注目し、上記の議論に反映させていくために、主に若手研究者を対象に緊急アンケート調査を実施しました。201251829日の短期間にもかかわらず、約120件の意見が集まりました。それらを分類した結果、下記のような論点が指摘されました。ご協力いただいた皆様の生の声をなるべく直接伝えるため、特徴的なコメントを論点ごとに抜粋し添付しました。本アンケートについては、6月5日に行われた上記部会にて、若手アカデミー委員の横山広美東京大学准教授、吉田丈人東京大学准教授より報告がされました。

人材育成に関する論点

1-1)   長期的な計画性のある政策が必要

1-2)大学院における教育の充実をはかるべき

1-3)若手研究者の雇用や研究費などの待遇を改善すべき

1-4)教員中の若手の割合をあげるべき、教員数を増やすべき

1-5)多様な「若手」を想定した対応が必要

1-6)女性研究者の実情にあった人材育成をすべき

1-7)多様なキャリアパスを提供すべき

1-8)グローバルな人材育成をすべき

1-9)博士の質を保証するとともに、若手人材の評価基準を見直すべき

1-10)社会が必要とする博士像を明確にし、人材育成の意義を社会に説明すべき

1-11)若手の業績評価の公平・透明化が必要

1-12)若手研究者が複数のラボを経験する研究交流が有効

1-13)より若い年代からの教育が重要

基礎研究に関する論点

2-1)基礎研究の意義を再確認し、社会に広く理解されるべき

2-2)研究のサポート体制を構築し、研究遂行にかける時間をしっかりと確保すべき

2-3)基礎研究を支える研究費の充実が必要

2-4)研究費配分や人事の公平性・多様性が必要

2-5)基礎研究の分野・投入する人員を削減すべきか

2-6)人文系への配慮がなされているか

2-7)その他

なお、アンケートの実施概要は下記の通りです。意見募集を非常に短期間で実施したこと、自由記述による意見収集のため意見の優先度については明瞭でないことなど、アンケート調査には制限もありますが、若手研究者から多様で建設的な意見が寄せられたことに意義があると感じます。

アンケート前文:

2020年までに、日本はどのような基礎研究の在り方を望み、人材を育成していくか。

 総合科学技術会議のもとで始まる科学技術イノベーション推進専門調査会 基礎研究・人材育成部会では、「人材育成の強化に向けた工程表」を6月上旬までに作成し、将来の日本を背負う若手研究者の育成プランをより具体的に明確化することになりました。

 日本学術会議若手アカデミー委員会も本問題に注目し、広く若手研究者の皆様から広くご意見を集め、上記の議論に反映させていくことができたらと考えております。

 「人材育成の強化に向けた工程表」は実質的に、科学技術基本計画「Ⅳ.基礎研究及び人材育成の強化 」をもとに審議が進められる予定です。http://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/kihon/main5_a4.htm

 若手研究者の皆様には、ぜひこの「Ⅳ.基礎研究及び人材育成の強化」をよく読んでいただき、批判的・建設的なご意見をいただければ幸甚でございます。

Facebookではよりインタラクティブな議論を展開したいと考えております。こちらにもご参加ください。http://www.facebook.com/groups/205315732923176/

 いただきましたアンケート結果は、後日、ホームページにて公開いたします。ご協力をどうぞよろしくお願いいたします。

2012518日 日本学術会議 若手アカデミー委員会

 

アンケート内容:

1.  あなたについてお聞かせください(年齢)

2.  所属についてお聞かせください

3.  基礎研究全般について広くご意見をお寄せください

4.  人材育成全般について広くご意見をお聞かせください

5.  科学技術基本計画第4章「Ⅳ.基礎研究及び人材育成の強化 」で優先すべき事項についてお書きください

6.  科学技術基本計画第4章「Ⅳ.基礎研究及び人材育成の強化 」について疑問があることについてお聞かせください

7.  そのほか、ご意見を自由にお書きください

 

アンケート結果: 

1.  あなたについてお聞かせください(年齢)

(回答数)
8.  所属についてお聞かせください
(回答数)


3-7. 基礎研究と人材育成に関する個別の意見

1)人材育成に関する意見

1-1)長期的な計画性のある政策が必要

  アカデミックポストが減る一方なのに、何故むやみに研究者を育成するのか?

  人材育成には時間がかかりますが、ややもすれば短期集中型のプログラムや性急で画一的な評価システムに多くを期待しすぎている面があるかとも思われます。

  人材育成と一言に言うが、生まれてからずっと人材育成である。突然大学とか、社会で人材育成ということをしてもすでに遅い。

  基礎研究に対しては、国は広く浅く長く支援し、その代り教育をしっかりやれ、でいいです。

  基礎研究には研究費も大事ですが、長期的な人件費の保障が一番重要です。向こう100年とは言わずとも20年ぐらいはぶれない計画がありがたいのですが。


1-2)大学院における教育の充実をはかるべき

  ポスドク1万人計画は、一部の優れた研究者を生み出す一方、キャリアプランの構築や深い思考に支えられた研究活動を行う能力に乏しいポスドクも多数生んだ側面がある。

  各研究者の生産性を最も生かせるキャリアプランを複数整備するとともに、大学院教育の充実と、大学院入学時の選抜システムの抜本的改革を期待したい。

  大学院生の定員を減らすことだと思います。またアカデミック研究者になる道以外も奨励すべきだと思います。

  教育や人材育成をないがしろにする教員があまりにも多い。研究専門職と教育兼務職を別に設置するべき。

  人材育成への取り組みを正確に評価して人件費を配っていただきたいです。

  大学教員の指導力、研究能力の不足に関する問題は全く提起されていない。人材育成にあたる教員の指導力、基礎学力、研究遂行能力を適切に評価し、問題のある教員には、年齢、職位を問わず、研修の場を設ける必要があるように思う。

  本当に人材を育成できる教員が,現在教員になっているとは限らない.30代の若手から見て,50~60代の教員の質の低さに驚くことがある.若手のレスキューと同時に,育成サイドの人材の見直しも強化していただきたい.

  (1) 研究独法の研究者を大学院の連携教員として積極的に利用すべきと考えます。大学と研究独法間の教育・研究目的での人材融通を積極的に行える体制を作っていただきたい。本体制をスムーズに行うため、大学や旧国研(研究独法)を国立の研究機関に戻す事がより望ましいと考えます。


1-3)若手研究者の雇用や研究費などの待遇を改善すべき

  優秀な人材に、清貧なれ、というのは、難しい。

  日本は研究者の待遇が悪すぎます。待遇が良くなれば人材の流出も防げますし、大学院に行きたいと思う学生も増えると思います。

  例えば文系院生が民間企業などに流れないのはその専門性が全く評価されないというだけでなく、莫大な借金という名の奨学金返済があるからである。

  ポスドクにも科研費を得る機会を与えてください。教授は必ずしも多くの事を知っている訳ではなく、最近の情勢についてはポスドクが一番詳しい事もしばしばです。

  学振PDの拡充の一方で別のフェローシップ制度の創設が望ましいです。

  若手だけに任期をつけても人材は流動しないことは、この7-8年の状況で明らかである。

  科研費の若手には、もっと少額で採択率の高い枠を作ってもいいと思います(数十万で採択率5割ぐらい)。独創性のある基礎研究を効率よく育成するためには、少額・高採択率の科研費が最適だと思われます。

  未だに無給研究員の制度を導入していない大学があることに驚きです。現在、学位取得者であれば、無給の研究員でも科研費に出せるので、科研費を取得出来れば、間接経費として大学側の収入にもなり、大学側にとってもメリットが大きいのに、この制度を導入しないのは、単に制度を変えるのが面倒くさいための運営・事務の怠慢と言わざるをえません。

  現在国のフェローシップでは国内学振(3)と海外学振(2)しかない。どちらも任期が短く、分野によっては成果を出すのが困難。特に海外学振は移転の苦労もありながら2年しかなく、ようやく軌道に乗ってきたら任期終了となる。

  著者の所属学会(『基礎研究』の分野)だけの現象かもしれないが,若くて優秀な研究者たちが任期付き雇用で綱渡りを繰り返した挙句,最後は外国に就業を求めるのが実情である.これでは,折角育成した人材をたらいまわしにした挙句,のしをつけて外国にあげてしまっているようなものである.彼らを定着させるために必要なのは,研究資金の援助ではなく,ただ長期間安定して働けるポストである.

  ポスドクや若手研究者の置かれている状況を述べますと、私の周りの研究者で結婚している30代は半数を切っています。結婚適齢期に人的流動性のために海外に行くと伴侶に出会える確率が減ります。加えて、2~3年で首を切られるかもしれないポスドクと結婚したがる人がいるでしょうか?晩婚化、非婚化が恐ろしい。

  例えば、博士号を取得した研究者を全員国家公務員として職を保証した上で、若年時に(数年の)海外研究の義務化や、5年程度で他機関へ移る義務化などで対応出来ないのでしょうか?「努力すれば報われる」という期待感の得られる社会を構築することが急務と考えます。ちなみに、ドイツ人の研究者(同僚)の話では、「ドイツでは博士号は尊敬の対象であり企業からも引く手数多である。博士号の学歴詐称が後を絶たないほど博士号に価値がある。」とのこと、さらに、以下の記事を読み、http://www.natureasia.com/japan/ndigest/special/index.php?a=88556(「国立大学で若手研究者が減少傾向」Nature ダイジェスト 特別公開記事Jun 2012, Vol. 9 No. 6)このような日本の状況を見ると、日本の未来に危機感を感じざるをえない。

1-4)教員中の若手の割合をあげるべき、教員数を増やすべき

  若手向けのテニュアトラックやパーマネントのポジションが、上の世代の人たちの数に比べてやはり少なすぎると思います。50-60代の教員が、30代の教員に対して数倍多いという大学スタッフの構造は、学生の教育に対しても負の影響を与えたりしないでしょうか? たとえば、学生が気軽に年代の近い教員に、将来のキャリアなどについて相談できないなど。 ポスドクは身分が不安定なので、研究職へのキャリアはまず学生に進めないことが多いと思います。

  政府主導で競争的資金・新規プロジェクトを立ち上げるよりも、運営費交付金を充実させ、
大学主導で各大学独自の人材育成策を行う方が望ましいと考える。

  政府の行政改革の数合わせとして、国立大学法人における教員ポストの減少がここ数年の研究成果の減少につながっていると考える。教育機会の平等の観点からも、国公私立大学の学生/教員比率の是正を進めるためにも、幅広い大学への助成を通じて、教員ポストを増加させる必要がある。

 

1-5)多様な「若手」を想定した対応が必要

  育成資金獲得への年齢区分は全廃し、学歴や職務履歴で、ブランクを差し引いた研究者歴算出や、ビジネスからアカデミアの世界に戻るパターンも想定して、若手育成を考える事は必要。

  私は真面目に勉強しそれなりに高いレベルの知識を得てきたつもりですが、そのことはポジションを得るためにあまり寄与しません。全体の一部でも良いので、試験により研究者を選抜する制度を設けてはどうでしょうか。

  人材育成に関して、基礎研究を行う学部においては、産業界の意向を踏まえた育成は不可能かつ無意味だと思う。産業界のための人材育成を大学に求めるなら、科学教育を行う学部と基礎研究を行う学部を分離し、それぞれに適した教員とカリキュラムが必要。

  学生の教育のみならず,現に社会に出て行った方々のリカレント教育

  レベルの「高さ」も重要だが、それが効果的に業界の「幅」につながるような仕組み作りが同時に必要。リーダーだけが必要なわけではないので。

  基礎研究の振興と、若手人材育成は分離して議論されるべきではないか。どういう人材を育てたいのか、ビジョンがみえない。年寄りになってもずっと基礎研究をしている人材を育てるのでしょうか。

 

1-6)女性研究者の実情にあった人材育成をすべき

  女性研究者の育児環境整備はどう考えているか。女性研究者のモデルケースとして想定しているライフパターンを示して欲しい。

  いわゆるイクメン研究者が、評価されるような研究職の評価態勢が必要であると思われる。

  女性研究者のみに育児の負担が偏り、女性の研究活動に支障を来していると思う。これを打開するためには、フランスのように、夫婦研究者のためのテニアのポストを創設し、夫婦研究者の目標となるようにすべきであると考える。

  無給研究員は女性研究者の支援にも有効です。任期付きの女性研究者が妊娠・出産を迎えた場合、任期切れに合わせて就職活動することは難しく、一時的に職につけなくなることは少なくありません。その間、子育ての合間に研究を続けようと思った時に、就業義務のない無給研究員は非常に有効です。

  女性研究者の割合について数値目標があるように、テニュアに占める若手研究者の数値目標を示すべき。20代、30代はあわせて少なくとも3040%は必要。

  夫婦で同じ職場に勤め、かつ子供を預けられる環境を整えれば研究活動を休止している女性研究者を呼び戻すことができ、短期間で優秀な研究者を増やすことが可能であると考える。

 

1-7)多様なキャリアパスを提供すべき

  現在若手研究者が置かれている様々な状態を情報として収集して、広く対応を提示できるキャリアパスの構築が必要である。

  若手人材とされるポスドク・大学院生には、現実には、将来若手 PI となっていく集団と、そうでない集団が含まれると思います。こういう提言では、前者の育成には触れますが、後者はほとんど触れられていません(意図的に?)。しかし、大学でも研究所でも、実際に実験をおこなう人として前者と後者は必ず一定数必要です。

  キャリアパスという点では、民間任せではなく、国がもっと積極的に学位取得者を公務員として採用すべきだと思います。省庁の各分野で積極的に学位取得者・研究者を採用すべきです。そのためには、現在の学士取得者と一律の公務員試験ではなく、新たな枠組みが必要だと思います。

  キャリアパスと職能教育がうまく対応していない。ポスドクに行ったあと民間就職をする人が多いのであればそうした方向転換をしやすくなるような幅を拡げるポスドク向けリカレント教育があってもいいし、ポスドクのあと浪人する人が単に研究生になるのではなくて、もう少し別の力のつけ方がある。

  日本企業が博士人材に求める能力として「自ら課題を発見し解決する能力」がよく挙げられるところですが、日本社会において、特に日本企業において(中略)この能力が求められているようには見えません。課題を解決するということは変化を伴います。もし真に課題解決能力を博士人材に期待するならば、自らを変化させることに伴う痛みを受け入れるべきでしょう。しかしながら、痛みを伴っても良いから自分を変化させたいという覚悟を日本企業が持っているようには見えません。

  2.「博士課程における進学支援及びキャリアパスの多様化 」について、以下の点は
是非行うべきだと考えます。ただし、博士課程が単なる職業訓練ではなく、
あくまでも研究の場であることが大前提であると考えます。(・国は、大学が、産業界と協働し、博士課程学生に対して産業界で必要とされるマネジメント能力や複数の専門分野にまたがる基礎的な能力を育成するよう求める。また、産業界は、博士課程修了者やポストドクターの能力を評価し、研究職以外でもその登用を進めていくことが期待される。)

  また、「次代を担う人材の育成」に掲げられている諸施策が理系のみならず文系にも広まることが必要だと考えます。なぜなら、現状大学で行われている文系諸分野の大半は高校までではほとんど触れられることすらないからです。「文系」とされる生徒の大半は単に数学ができないだけで、文系に興味があるとは限りません。育成すべきは理数好きのみならず、学術全般に対する理解を持った次代を育成すべきではないでしょうか。

  人文・社会科学系若手のキャリアパス拡大には真剣に取り組んでいただきたいです。人文・社会科学系は研究対象がそれこそ人間や人間社会であり、産業界に人文・社会科学系博士が増えれば、それだけでも現在の人文・社会科学の知見を広めることにつながり、学問の社会的還元の一助となるのではないでしょうか?
 

1-8)グローバルな人材育成をすべき

  日本の学生にもっとお金を掛けるべき。海外から呼ぶのではなく、海外に負担無く、日本人の学生や若手研究者が留学できる様なシステムを拡充するべき。

  欧米で人脈を持つトップラボ(日本人に限らない)を好条件で日本に招へいして欲しいです。名義貸しだけでなく実際に日本でラボを持っていただきたいです。

  小さい頃から本質的な英語教育をおこない本当に使える英語を身に着けることが大事。

  メソッド・メソドロジー教育のような知識を育む観点と合せ、このような一研究者としての「姿勢」や「メンタリティー」の醸成も、周りにとらわれない、自立した、独創的かかつ国際的な競争に負けない強い研究者を育むことに重要だと考えます。

  大学院教育を通じた人材育成と国際交流は、留学元母国に親日家の優れた人材を輩出し、得難い人脈を形成することが可能になり、国力強化の一助となる事が考えられる。

  例えば、具体的な改善点を挙げるとすれば、日本学術振興会の海外特別研究員制度の実施期間は、現行の2年間から、3年間に是非とも延長して頂きたい。(中略)しかしながら、国際的に名高いフェローシップ(HFSPなど)では、実施期間は3年間のものが多いですし、実施期間終了後も独立したPIとして研究がスタートしやすいように様々なサポートプログラムがあります。

  議論やプレゼンテーション、対話力などここの人格がうまく交わり、うまく刺激し合えるような土壌を養うような教育

  ずっと日本で育って来た日本人にとって英語の壁は依然として厚く、世界とわたりあうには英語が大きなハンディとなっている。大学では理科や数学の英語の教科書を読んだり、論理的な英会話を習得するための授業があってもいいと思う。

 

1-9)博士の質を保証するとともに、若手人材の評価基準を見直すべき

  知の最先端に立って研究しようとしても、ゆきすぎた論文成果至上主義がはびこっていて、優秀な学生ほど淘汰されやすい状況にある。

  優れた人材の多様なキャリアパスを確保するためにすべきことは、博士号取得者の学術的リテラシーを保証できるような品質管理の仕組み作りと思います。そのリテラシーとして、論文を執筆する能力は当然のことながら、自分の魅力を他者に的確に伝えられる能力も同様に重要です。

  現状では博士号取得者の質に大きなばらつきがあり、企業にとって博士号取得者の採用が大きなリスクになっている面は否めません。博士号取得者の質を保証するような制度を構築する必要があります。

  業績を過剰に評価する風潮から、大学院生が短期的に結果の出やすいテーマに走る傾向にあります。また、座学の時間を削って実験ばかり行う学生も多く見られます。重厚な専門知識を身につけ挑戦的な課題に取り組む人材を育成するためにも、若手の評価において過去の業績(論文)以外による評価を導入すべきです。

 

1-10)社会が必要とする博士像を明確にし、人材育成の意義を社会に説明すべき

  博士号の習得者がどのような職種に必要かを、社会全体から見直す取り組みを評価しています。世界的な優良企業で、どのような仕事に博士号取得者が従事しているか、またその理由は何かを、当事者だけでなく、広く国民が知ることができれば、基礎研究への理解や認識が良い方向に変わっていくのではないかと思います。

  グローバルな視点も重要ですが、日本の場合はそれよりも国内の研究及び教育基盤についてもっと内省的になるべきです。今後は、グローバリゼーションに対応していくために後進国が追いつけないような市場を開拓する産業構造改革が必要です。そのためには博士を取得した人材が必要となるのではないかと思います。

 

1-11)若手の業績評価の公平・透明化が必要

業績評価の公平性も疑問を感じる点です。単に論文の本数やインパクトファクターのみを機械的に数えるならば、研究者は質の低い論文を量産する戦略に走るでしょう。このような戦略にインセンティブを与えることは、上記の基礎研究の点から見て破壊的であると考えます。さらに、分野間の研究成果の発表のされかたの差異を考慮しない業績評価についても危惧しています。会議論文やジャーナル論文等、分野によって業績発表の仕方は異なります。ジャーナル論文を重視する分野の教員が国際会議論文を重視する分野の応募者の業績を不当に低く評価するということも多々あると聞きます。これらの点は主に私の経験から見た、若手の側からの不安ですが、人材育成においては、人材を使う側の意見だけではなく、学生・若手の側にどのような不安や不満があるかを汲み取ることも必要であると考えます。

優れた限られた研究者によって行われる、応用を目指さない、研究者の自由な発想に任された基礎研究というものは、高度に文化的な活動として、人類にとって非常に重要です。しかし、この「優れた限られた研究者」というものがなんであるのか、日本は議論をしてきませんでした。大学院重点化によっていたずらに基礎研究者の数を増やした結果、基礎研究を行う研究者は数万人規模で膨れ上がっています。これではとても、「優れた限られた研究者」とはいえません。数を徹底的に絞り、選ばれたほんの若干名だけが、自由に基礎研究を行えるようにするべきです。

・公正さを期せば自ずから評価軸は論文の量と雑誌の名前に偏ります.また,この「まじめに,誰からも文句がないように,公正に評価しようと努力するあまり→数字しか見なくなる」態度こそが,世界有数の捏造論文数,という近年の日本の不名誉を加速させているのではないかと危惧しています.

 

1-12)若手研究者が複数のラボを経験する研究交流が有効

  博士課程期間中に、他機関のラボで、23ヵ月以上滞在したうえでの連続した研究遂行を強く推奨する制度を作るべきである。これが、結果的に博士のレベルの向上や人材の流動化を促す原動力になると思われる。コミュニケーション能力に乏しく、限られたテーマにしか従事できず、研究テーマの設定から遂行から論文執筆までを自分でプロデユースできないような人材では、博士を有していても仕事が無いのは致し方ない。


1-13)より若い年代からの教育が重要

私が知る限り「理科離れをくい止めるため」の、2002年から始まった高校教育における、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)プログラムは一定の効果を示していると評価できます。そこでは、自発的な思考と研究に対する意欲が養われます

 

2)基礎研究に関する意見

2-1)基礎研究の意義を再確認し、社会に広く理解されるべき

  「結果が出るか分からない長期間勝負の基礎研究」は確実にしにくい(ほぼ出来ない)状況になってしまった。

  社会全体のみならず政府内、政治家の方々へもコンセンサスが得られておらず、事業仕分けを始めとした近年の政策に不安を感じる。

  基礎科学・学問の特質と、社会への影響の伝播は、たいへん緩やかで確率的・散発的なものであり、社会的なコンセンサスが得られているとは言いがたい。

  「基礎研究」だけでは錦の御旗にならないと思います。社会(納税者)が納得してくれるようなスローガンが必要。

  選択と集中に並行して、「良きバラマキ」、すなわち科研費的なグラントの増加を促したい。研究全体の力強さは裾野の広さと多様性に依存しており、いずれの分野にも多くの人々の努力とそれなりの研究費が費やされてきており、そしてある程度の蓄積がある。

  イノベーションを担う人間というのは、様々な基礎研究をコーディネートできる人間であり、スティーブ・ジョブスは基礎研究者ではない。イノベーションは価値の創生であって、新技術とは限らない。

 

2-2)研究のサポート体制を構築し、研究遂行にかける時間をしっかりと確保すべき

  研究成果の停滞を招かぬよう、事務手続きをより簡素化し、研究者が最も創造的な時間を出来るだけ過ごせるような制度設計が必要だと考える。

  社会が基礎研究から最大の恩恵をうけるためには、研究に携わる人間の自由度を極限まで高め、サポートすることで、彼らの生産性や創造性を最大限に引き出すことが重要で、かつ近道であると考える。

  研究以外のことに貴重な「ブレイン」のマシンタイムを供出することを強いている現状を把握せよ。

 「4.国際水準の研究環境及び基盤の形成」について。大学の施設や独法系研究機関で共同利用研究を行おうとしても、「技術スタッフが少なくてサポートが受けられず、ろくに成果が出ないのでやっぱり共同研究をやめる」「安全対策は重要ではあるが融通がきかないとか事務手続きに時間がかかりすぎて必要な試薬が取りよせられずに実験できなかった」「外国人と共同研究しようと思ったら、手続きが煩雑すぎて、外国人が面倒がって共同研究できなかった」などは実例としてよく聞くので、技術専任教官を増やすとか、諸々の手続きに関してある程度各研究機関の裁量に任せたり外国の基準に合わせるなどして融通のきくものにする、などの改善策が欲しい。

 

2-3)基礎研究を支える研究費の充実が必要

  多様な資金は必要ない。全ての省庁を通じて基礎研究に関する予算は科研費に一本化することを提言する。

  一億円の研究10件よりも、一千万円の研究を100件推進すべき。

  大学の運営費交付金では、研究室の電気代の支払いにも不足するありさまであり、基礎研究に研究費がつくのは、科研費くらいで、基礎研究を継続するのが困難である。

  国家戦略として、どの基礎研究を重点化することが、10年先にどうなるのかを明確に考えてない。

  選択と集中が過度

  個人での重複制限はあってもラボごとでの制限がないため、結局資金の一極集中がおこってしまう。一極集中は結局つかいきれずにムダを生むので、人件費を除いた部分については500万〜2千万程度を広く配分した方が底上げにつながる。


2-4)研究費配分や人事の公平性・多様性が必要

  必要なのは公平な研究費配分制度と公正な人事システムのみであると考えます。

  多様な研究があること、それを許容する懐の深さ、結果として生まれる独自性を面白がって大切にしていくことが、我が国の発展につながるように思います。流行り廃りで、研究を評価することが無いようにお願いします。

  大型科研費をどのテーマに割り当てるのかの審査が不透明です。

  研究開発への投資を政府に呼び掛けるのが難しいのなぜか、原因から考えられる最善の解決策をとって頂きたいです。研究経験者が政府に入る、政府に研究開発を真剣にアピールする、など。

  大学人事がひどすぎる。業績を上げても、フェアな競争になっていない。ポスドクにとったら無理な椅子取りゲームになっている。第3者機関によって大学人事の監視が必要。

  ノーベル賞受賞者を一人出すことよりも、50年先に大企業に成長しているような新しい産業を10件創成することを目指すほうが、低コストで日本の将来のためになると思う。基礎体力の無い企業は基礎研究を出来ないのは周知である。ノーベル賞は結果的に出れば良いのではないか。

  基礎研究の場合、超大型プロジェクト研究を5年間サポートするようなものよりも、年間1千万円規模の研究費を多くの研究者に10年程度の期間にわたって配分する方が、研究成果、および人材育成の面でより大きな効果が期待できる。このような、研究費配分に関する制度改革。

 

2-5)基礎研究の分野・投入する人員を削減すべきか

基礎研究は非常に限られた範囲内で行うべきで、国家として重点的に戦略的に取り組むのは、応用研究です。その為には、人材は非常に幅広い工学の素養を持つ必要があります。しかしながら、現状では、大学の理学部を中心とする基礎理科教育の現場では、全く工学の教育がおこなわれておりません。設計図の一つも書いたことのない大学生が、イノベーションを起こせるわけがありません。科学技術立国を目指すなら、工学教育を教育の大黒柱に据え、義務教育の中学生段階から工学を主要科目として取り入れるべきです。小学生であっても、物作りを見据えた工学的な遊びを教育現場に取り入れるべきでしょう。理科、数学でいくら成績を収めても、それはただの座学でしかありません。福沢諭吉の言を重視し、実学を充実させるべきです。

ライフイノベーションは即刻やめるべきです。日本では産業として育てることはできません。ポスドクが増えていく一方です。今すぐ、バイオのポスドクに物理や数学を習わせ、分野を転向させた方が国益にかなうでしょう。

明治維新のアカデニズムに戻り、実学を充実させるべきです。日本は、基礎研究にうつつをぬかしていられるほど、もう余裕はありません。東京大学も実学の拠点として再編成すべきです。教養学部では、工学教育を全学の柱にし、理工系大学院入試では工学の広範囲な学問を課すべきです。自由なアカデニズムは早稲田や慶応などの私学に任せ、主要国立大学は戦略的に国家人材を作るべきです。

基礎研究の充実は極めて重要であると認識しつつ、しかし以下の事柄については今後議論は避けて通れないと考える。
・フルセットの研究環境の維持の在り方
日本は、強弱はあれどほとんど全分野・全領域といえるような学術研究の裾野の広さを誇り、一国の中に各分野の研究者と研究環境をフルセットで備えている稀有な国の一つといえる。
しかし、昨今の経済状況では、これらの全ての分野を同じ規模で支えていくことは難しいとも考えられる。一つの分野において、一度断絶してしまうと、再度の人材の充実などには長い時間がかかり、それは出来る限り避けるべき事柄である。しかし、その一方で、全体におよぶ規模の維持の難しさもまた考慮すべき問題であり、その配分の在り方などについては、将来的には避けて通れないと考える。


2-6)人文系への配慮がなされているか

基礎研究という言葉が指す分野が明確でないように思いました。例えば、本プランのなかで、数学は基礎研究という前提があるように思いますが、哲学は基礎研究と前提にされているでしょうか。科学技術へ応用可能な研究が基礎研究であるという認識であれば、人材育成も「理系博士」中心の人材育成でに繋がると考えられます。文理の枠を超えた基礎研究の捉え方、人材育成の方策が作られることを願います。

・産学官連携や国際研究になじまない人文系の研究にどうアプローチしていくかの視点が欠けている。また、国際水準の研究基盤の強化として「英語」に偏った施策でないことを望む。また、国際基準の研究基盤整備には、大学が障害者やセクシュアルマイノリティ等の社会的なマイノリティをどのように公正に受け入れるかという機会均等の整備も重要な問題である。

 

2-7)その他

  研究独法の統廃合・ファンディング機関統廃合はどうなっているのか?上記のような制度設計を見直すにあたり、大きな改変のある時はほぼ唯一のチャンスである。

  地域における基礎科学を活かした行政展開、産業振興、教育をすすめるために、公立試験研究機関、自然科学系博物館などの充実・支援。地域の中に科学が役立ち、社会を活性化し、さらに若年者に刺激を与えられるのは地域に根ざす研究者が魅力的に活動することが不可欠。